2018年5月12日土曜日

国民健康保険制度が変わった

 今年の4月から国民健康保険制度が変わった。早速、「どこが、どう変わったのか?」というご相談をいただいたので、少し整理しておくことにした。

 まず、今回の改正について国は、増大する医療費をあげている。下のグラフのように1985年16兆円、1995年27兆円、2005年33.1兆円、2015年42.3兆円と高齢化の進行とともに着実に医療費は増加している。そして団塊の世代全員が後期高齢者となる2025年には61兆円を超えると試算されている。
 また、二つ目には少子高齢化による現役世代の負担増をあげる。高齢者の有病率は当然のことだが高い。後期高齢者の給付費が、若人の約5倍、年86万円にのぼることを指摘しているが、それは、国民健康保険制度が会社勤めをしているいわゆる社会保険加入者以外を対象としているため、もともと国保の被保険者は高齢者が多いのだから当然のことなのだ。



出典:厚生労働省作成資料

 国は、国民健康保険制度が日本の国民皆保険の基盤となる仕組だが同時に構造的な課題を抱えていると指摘する。その課題が、「年齢構成が高く医療費水準が高い」、「所得水準が低く保険料の負担が重い」、「財政運営が不安定になるリスクの高い小規模保険者が多く、財政赤字の保険者も多く存在する」の三つだ。
◆年齢構成が高く医療費水準が高い
・ 65~74歳の割合:市町村国保(38.9%)、健保組合(3.0%)
・ 一人あたり医療費:市町村国保(35.0万円)、健保組合(14.9万円)
◆所得水準が低く保険料負担が重い
・ 加入者一人当たり平均所得:市町村国保(84.4万円)、健保組合(207万円(推計)
・ 無所得世帯割合:28.4%
・加入者一人当たり保険料/加入者一人当たり所得
  市町村国保(9.8%)、健保組合(5.7%) ※健保は本人負担分のみの推計値
◆財政運営が不安定になるリスクの高い小規模保険者が多く、財政赤字の保険者も多く存在する
・収納率:平成11年度 91.38% → 平成27年度 91.45%
・最高収納率:95.49%(島根県) ・最低収納率:87.44%(東京都)
・市町村による法定外繰入額:約3,900億円 うち決算補てん等の目的 :約3,000億円、繰上充用額:約960億円(平成27年度)
・1716保険者中3,000人未満の小規模保険者 471 (全体の1/4)
・ 一人あたり医療費の都道府県内格差 最大:2.6倍(北海道) 最小:1.1倍(富山県)
・ 一人あたり所得の都道府県内格差 最大:22.4倍(北海道) 最小:1.2倍(福井県)
・ 一人当たり保険料の都道府県内格差 最大:3.6倍(長野県)※ 最小:1.3倍(長崎県)
  ※東日本大震災による保険料(税)減免の影響が大きい福島県を除く。

そこで、これらの課題を解決していくために、三つの改革の方向性が提起された。①医療保険制度の安定化、②世代間・世代内の負担の公平化、③医療費の適正化、の三点について検討された結果、社会保障制度改革プログラム法における対応の方向性が次の通り確認された。
① 国保に対する財政支援の拡充
② 国保の運営について、財政支援の拡充等により、国保の財政上の構造的な問題を解決することとした上で、
・ 財政運営を始めとして都道府県が担うことを基本としつつ、
・ 保険料の賦課徴収、保健事業の実施等に関する市町村の役割が積極的に果たされるよう、都道府県と市町村との適切な役割分担について検討
③ 低所得者に対する保険料軽減措置の拡充

 そして、持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律が2015年5月に成立した。この改正の主旨は、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく措置として、持続可能な医療保険制度を構築するため、国保をはじめとする医療保険制度の財政基盤の安定化、負担の公平化、医療費適正化の推進、患者申出療養の創設等の措置を講ずる。」もの。具体的にその内容を見ていく。

1.国民健康保険の安定化
○国保への財政支援の拡充により、財政基盤を強化 (27年度から約1700億円、29年度以降は毎年約3400億円)
○平成30年度から、都道府県が財政運営の責任主体となり、安定的な財政運営や効率的な事業の確保等の国保運営に中心的な役割を担い、制度を安定化

2.後期高齢者支援金の全面総報酬割の導入
○被用者保険者の後期高齢者支援金について、段階的に全面総報酬割を実施
(26年度:1/3総報酬割→27年度:1/2総報酬割→28年度:2/3総報酬割→29年度:全面総報酬割)

3.負担の公平化等
①入院時の食事代について、在宅療養との公平等の観点から、調理費が含まれるよう段階的に引上げ(27年度:1食260円→28年度:1食360円→30年度:1食460円。低所得者、難病・小児慢性特定疾病患者の負担は引き上げない)
②特定機能病院等は、医療機関の機能分担のため、必要に応じて患者に病状に応じた適切な医療機関を紹介する等の措置を講ずることとする(紹介状なしの大病院受診時の定額負担の導入)
③健康保険の保険料の算定の基礎となる標準報酬月額の上限額を引き上げ (121万円から139万円に)

4.その他
①協会けんぽの国庫補助率を「当分の間16.4%」と定めるとともに、法定準備金を超える準備金に係る国庫補助額の特例的な減額措置を講ずる
②被保険者の所得水準の高い国保組合の国庫補助について、所得水準に応じた補助率に見直し(被保険者の所得水準の低い組合に影響が生じないよう、調整補助金を増額)
③医療費適正化計画の見直し、予防・健康づくりの促進
・都道府県が地域医療構想と整合的な目標(医療費の水準、医療の効率的な提供の推進)を計画の中に設定
・保険者が行う保健事業に、予防・健康づくりに関する被保険者の自助努力への支援を追加
④患者申出療養を創設 (患者からの申出を起点とする新たな保険外併用療養の仕組み) 

 この改正に基づき、2018年4月1日に「都道府県と市町村がともに国民健康保険の保険者
となり、それぞれの役割を担う」仕組みが動き始めた。

出典:厚生労働省作成資料


出典:厚生労働省作成資料

 厚生労働省は、今回の見直しで次のような効果が期待できるとしている。
◆効果1:都道府県内での保険料負担の公平な支え合い
【新しい財政運営の仕組み】
・都道府県内で保険料負担を公平に支え合うため、都道府県が市町村ごとの医療費水準や所得水準に応じた国保事業費納付金 ( 保険料負担 ) の額を決定し、保険給付に必要な費用を全額、保険給付費等交付金として市町村に対して支払います。これにより、市町村の財政は従来と比べて大きく安定する。
・都道府県は、市町村ごとの標準保険料率を提示 ( 標準的な住民負担の見える化 ) し、市町村間で比較できるようになる。
【保険料の賦課・徴収】
・市町村はこれまで個別に給付費を推計し、保険料負担額を決定してきたが、今後は都道
府県に納付金を納めるため、都道府県の示す標準保険料率等を参考に、それぞれの保険料算定方式や予定収納率に基づき、それぞれの保険料率を定め、保険料を賦課・徴収。
◆効果2:サービスの拡充と保険者機能の強化
・都道府県は、安定的な財政運営や効率的な事業運営の確保のため、市町村との協議に基づき、都道府県内の統一的な運営方針としての国民健康保険運営方針を定め、市町村が担う事務の効率化、標準化、広域化を推進する。
・広域化により、2018年度から、同一都道府県内で他の市町村に引っ越した場合でも、引っ越し前と同じ世帯であることが認められるときは、高額療養費の上限額支払い回数のカウントが通算され、経済的な負担が軽減される。
・今後、市町村は、より積極的に被保険者の予防・健康づくりを進めるために様々な働きかけを行い、地域づくり・まちづくりの担い手として、関係者と連携・協力した取組を進める。

 こう見てくると今回の改定は国民にとって良いことのように見える。国は制度改正の内容を国民に知らせる場合、個人レベルでどのような影響があるのかを明示しないので、その問題点に気づかないまま、制度の改正を許してしまうことが多いわけだが、国民健康保険の都道府県化は国民の生活に何をもたらすかをしっかり見ておく必要がある。

 国民健康保険の加入者の8割は年金生活者と非正規雇用の低所得者であるにもかかわらず、所得に占める保険料負担率は国保の方が4%以上高い。所得水準が低いにもかかわらず、相対的には高い保険料負担を強いられていることをまずおさえておかなければならない。一貫して国保料引き下げの運動が闘われているが、当然のことなのである。
 高齢者が多いことから有病率も高く、したがって国保からの給付費は被用者保険と比して高額にならざるを得ない。国保財政は国保料だけでは運営できず、国からの国庫補助と市町村の一般会計からの繰入金によって補っているわけだが、この繰入金を国は赤字と認定している。しかし、果たしてそうか?
 国保は憲法25条に基づき、国民の健康権を保障するためにつくられた制度であり、国が定率国庫負担として国保財政の40%を負担してきた。それが40%⇒36%⇒34%⇒32%と引き下げられてきた経過があり、当然のようにその分は市町村の負担が増えることにつながった。
 にもかかわらず国は、一般財源からの繰り入れを『赤字』だとして計画的に削減・廃止するよう求めている。そして、国保の財政運営の責任を都道府県に担わせるようにするのがこの4月から始まった国保の都道府県化である。
 都道府県は市町村に対し、市町村ごとに医療費水準などを反映した納付金の完納を義務付けるとともに、「標準保険料率」などを示すことになった。標準保険料率は参考にすぎないが、これより保険料率が低い市町村を法定外繰入金の削減・解消、つまり国保料の値上げへと誘導するものだ。
 国は、法定外繰入金の解消に向けて「保険者努力支援制度」を作った。これは、自治体間で繰入金の削減や国保料の徴収強化、医療費削減などを競わせる仕組みで、住民にとって、それは今でも高い国保の保険料が段階的に値上げされていくことを意味している。住民負担に配慮と言いながら、国保料の値上げを迫るという矛盾をはらんでいることを忘れてはならない。国が住民負担に配慮するというならば、削減してきた定率国庫補助をもとの40%に戻し必要に応じて更に引き上げることこそ、やるべきことではないだろうか。

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