まちづくり研究所の事務所を自宅に移すことにしました。事務所を外に構えると、毎月経費が発生しますが、それを負担し続けることが辛くなってきたためです。構想があったのですが、昨年6月に某特別養護老人ホームの施設長を引き受けてしまったために、狂いが生じました。
私の中では、社会福祉法人との連携の中でまちづくりの理論と実践を積み上げていきたいという思いがあって、その社会福祉法人で私の構想が活かせるのではないかと思っていたのですが、世の中そんなに甘くないということを思い知りました。
2016年3月、社会福祉法等の一部を改正する法律が成立・公布されました。この法律の狙いを厚生労働省がまとめていますが、「福祉サービスの供給体制の整備及び充実を図るため、社会福祉法人制度について経営組織のガバナンスの強化、事業運営の透明性の向上等の改革を進めるとともに、介護人材の確保を推進するための措置、社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直しの措置を講ずる。」ということです。
社会福祉法人の問題点はいくつかありますが、私がこの間観察を続けてきたところでは、次のようなことが特に改善を急ぐ問題ではないかと思っています。
一つは、小規模社会福祉法人が多いということです。岡山県内に320を超える社会福祉法人が存在し、中には、一法人一施設というところもたくさんあります。こうした施設では経営基盤がぜい弱で人事管理上の課題もあり、社会保障財源の観点から、報酬の増が見込めない中にあっては、法人規模をどう拡大していくかが課題となっていると思います。厚労省の統計によれば、1990年3月31日の13,423法人から2015年の20,303法人へとざっと7千法人増えていますが、介護保険がスタートし、介護施設という新たな市場が創出されたことが一番大きな要因でした。
しかも、介護保険事業という新たな市場に参入したのは、コムスンに代表されるように異業種からの参入が多く、社会福祉法人を設立したのも本業の利益を社会福祉に投下して新たな収益増を狙うなど「社会福祉事業への取り組みではない」動機を持っている理事長も少なくなかったと言えます。現に、「60歳で社会福祉法人を設立して介護老人福祉施設(特養)を経営してきたが、75歳になったので引退を考えている。ついては、この法人丸ごと買ってほしい。」などという話を真顔でされたことも一度や二度ではありません。
こうした法人では、社会福祉法人といえども、個人オーナー企業と同じような経営が行われてきているわけで、そこに社会福祉法人制度改革が出てきた課題の一つがあります。業務を執行する理事長等の事業に専従している役員を牽制するために、理事や評議員、監事の役割や権限が明確にされ、ガバナンスの強化が求められています。
二つ目の問題は、介護保険財源が厳しく、介護報酬の引き上げができないということがあります。介護保険財源は、国と県が半分、残りを保険料で賄っています。財源不足を国が補うという方針をとれば財源問題は解決する話であり、朝鮮半島に平和が訪れようとしている中で、5兆円を超える防衛費(軍事費)がいるのかということや、狭い日本にリニア新幹線のようなトンネルだらけの莫大な建設費用のかかるものがいるのかという国の財政の使い方を見直せばいいだけの話ではありますが、今のところ、国はそういう考えには立っていないので、介護保険財源には限りがあります。だから、社会福祉法人の自立性を高めるといいながら、社会福祉事業の拡大、公益事業・収益事業を含めた多角的な事業展開を認めていこうということになっています。
そのため、本部会計と施設会計といった厳格な区分会計を撤廃し、法人単位での経営を可能にしようという方向に進みつつあります。
私は、例えば銀行がそうだったように、これから社会福祉法人のM&Aが始まっていくと思っています。年商10億円を超える社会福祉法人に会計監査人を配置することが義務付けられますが、おそらくそれが社会福祉法人として生き残れるかどうかのボーダーラインとなるでしょう。
そして、法人経営には、社会福祉法人らしい透明性と責任の明確化が求められることになり、経営の私物化を排除し公正で公平な意思決定のルールと意思決定への地域住民の参加を保障する場としての評議員会制度の充実が要求されてくると思います。
こうした問題意識を持てない社会福祉法人は、淘汰されていく運命にあります。私が今身を置いている法人は生き残れる側にいるのかどうか、軽率に判断はできませんが、少なくとも、私の問題関心からは少しずれていることだけは間違いなく、このままでは思い描いていたことが形にできないという焦りを感じてもいます。
そんな中で、ある方から「うちに来ないか」とお声掛けいただきました。私のいろんなアイデアを少しずつ話しているところですが、「うちに来てやればいい」と言ってくれます。私が、以前から尊敬している人生の大先輩のお一人なんですが、そこでなら私のやりたいことがやれる可能性があるという思いを強くしています。
そんなわけでいったん事務所を撤収しますが、その大先輩の立ち上げた社会福祉法人に移った後、また、あらためて事務所を開き、誰もが安心して暮しつづける地域をつくり、そのことが、その社会福祉法人の発展につながるような、そんな仕事がしたいと考えているところなのです。